事務職として働く美和さんは、一人で暮らす日々に慣れ、自分なりに落ち着いた生活を送っています。休日に本屋へ行くことや、好きな料理を作る時間も大切にしています。
一方で、誰かと親しくなってみたい気持ちが生まれるたびに、「43歳の今からでは」と、自分でその思いを打ち消していました。恋愛をしてこなかったことを説明するくらいなら、望んでいないことにした方が楽だと感じていたといいます。
美和さん・事務職(43歳)

美和さんは、周りには恋愛についてどう話していましたか?



「私は一人が気楽だから」と言っていました。それは嘘ではありません。一人で暮らすのは好きですし、全部を誰かと一緒にしたいわけでもないので。



でも、それを言うたびに、誰かと歩いてみたいとか、夕食を一緒に食べてみたいという気持ちまで、引っ込めていました。一人が好きなら寂しいと言ってはいけないような、自分で矛盾を許せないところがありました。



恋愛をしてみたい気持ちは、以前からあったのでしょうか。



ありました。好きになった人もいました。でも、気持ちを伝えたことはありません。職場や友人関係が変わるのが怖くて、何も言わないうちに相手に恋人ができたりして。



年齢が上がるにつれて、その話をするのも難しくなりました。若い頃の片思いなら話せても、今も交際経験がないと言うと、理由を説明しなければいけない気がしていました。



「今さら」という言葉は、どんな時に出てきましたか?



素敵だなと思う人を見かけた時や、友達夫婦の話を聞いた時です。少しいいなと思っても、「今さら私が」と続けると、それ以上考えなくて済みました。



傷つかないための言葉だったのかもしれません。でも、それを何年も続けていたら、本当に何も望んでいないのか、自分でもわからなくなりました。



相談を考えるきっかけになった出来事はありましたか?



休日に、一人で少し遠い街まで出かけたんです。楽しかったんですけど、帰りの電車で、この話を誰かに聞いてもらいたいなと思いました。その気持ちまで否定しなくてもいいのでは、と初めて考えました。



恋人がいないから旅行がつまらなかったわけではありません。楽しかったことを誰かと分けたい気持ちもある。その両方を、一度言葉にしてみたくなりました。



相談することへの不安は、どんなものでしたか?



年齢を聞いて驚かれることと、すぐに婚活を勧められることです。自分でも、結婚したいのか、まず誰かと親しくなりたいのか、はっきりしていなかったので。



だから最初に、「何をしたいか決まっていないけれど、話したいです」と伝えました。相談するなら結論を持っていなければいけないと思っていたんですが、それでは一人で考えているのと同じだなと。



話し始めてみると、いかがでしたか?



思ったより、昔のことをたくさん話しました。好きだった人のことも、誘われて断ったことも。振り返ると、恋愛に興味がなかったという一言では収まらない時間でした。



ただ、昔に戻ってやり直すことはできませんよね。途中から、なぜできなかったかを考えるだけではなく、今ならどんな関係がほしいかを話すようにしました。



今、望んでいる関係はどんなものですか?



毎日ずっと一緒というより、お互いの生活を大切にしながら会える関係です。何かあった時に話せて、特に用事がなくてもお茶ができるような。



交際と結婚をすぐに結びつけず、まずその人と過ごしてどう感じるか知りたいです。私は一人の時間も必要なので、それを言える相手がいいと思います。



ご自身の希望が見えた後、何か行動しましたか?



以前から行っていた地域の読書会で、終わった後のお茶に参加しました。いつもは会が終わるとすぐ帰っていたんです。予定がなくても、なんとなく残ってはいけない気がして。



初めて残った日は、ほとんど聞いているだけでした。でも、本の話から普段の生活の話になって、みんなにもいろいろな過ごし方があるんだなと思いました。私だけ違う場所にいる感じが、少し薄れました。



その場で、親しくなった人はいましたか?



何度か話す方はできました。今のところ、恋愛の関係ではありません。会うと前に話した本の感想を聞いてくれるので、それが嬉しいです。



前なら、親切にされても「誰にでもそうなんだろうな」で終わらせていました。今は、特別な好意かどうかを決めなくても、その会話が嬉しかったことは認めていいと思っています。



恋愛経験について話すことは、どう考えていますか?



まだ簡単には話せません。長く秘密にしていたことなので。ただ、もし信頼できる相手に話す時が来たら、長い言い訳をしなくてもいいのかなと思っています。



「これまで交際する機会がなかったので、ゆっくり知り合いたい」と伝えられたらいいですね。相手の反応を全部想像して、自分で不合格にすることは減らしたいです。



ご自身の年齢については、気持ちが変わりましたか?



年齢が気にならなくなったわけではありません。同世代の人の家族の話を聞くと、違う時間を過ごしてきたんだなと感じます。でも、違うことと、私の時間に価値がないことは別だと思いたいです。



仕事をして、友達がいて、一人で暮らしてきた時間があります。恋愛経験がないという一つのことで、それらまで空白だったことにしなくていいですよね。



また「今さら」と思う日は、どうしていますか?



まず、疲れていないか考えます。仕事で余裕がない日は、何でも悪い方に考えてしまうので。その日に大きな決断をしないようにしています。



それから、「今さら何をするのが怖いの?」と具体的に考えます。食事に誘うのが怖いのか、断られるのが怖いのか。全部を年齢のせいにするより、自分が今困っていることがわかりやすくなりました。



これから、試してみたいことはありますか?



読書会で話す方に、気になっている展示の話をしてみたいです。一緒に行くかどうかは、会話の流れで考えます。最初から約束を取らなきゃ、とは思わないようにしています。



もし相手が興味を持たなくても、展示には自分で行くつもりです。誰かと楽しめたら嬉しいし、一人でも楽しんでいい。そのくらいの気持ちでいられたらと思います。



同じ年代で、気持ちをしまい込んでいる方へ伝えるなら?



何かを望むことと、すぐ行動することは別でもいいと思います。私はまず、誰かと親しくなってみたいと認めるだけで時間がかかりました。



恋愛しない生き方もありますし、私も今後どうなるかわかりません。ただ、やってみたい気持ちがあるのに、年齢だけを理由になかったことにするのは、もう少し待ってもいいのかなと思っています。



美和さん、ありがとうございました。ご自身の暮らしも、これからの楽しみも、大切にしてくださいね。
さいごに。
美和さんは、一人の生活が好きなことと、誰かと親しくなりたいことを、両立しない気持ちのように捉えていました。「今さら」という言葉は、その迷いに向き合わずに済む一方で、望みまで消してしまう言葉になっていました。
この物語は、43歳から恋愛を始めるべきだと勧めるものではありません。美和さん自身に、誰かと過ごしたい気持ちがあり、その気持ちを否定せず扱ってみる過程を描いたものです。
読書会に残ってお茶をしたことも、すぐに交際へつながる出来事ではありません。それでも、前に話した本を覚えていてもらえた嬉しさは、彼女の日常に生まれた新しい感情でした。
恋愛してこなかった時間も、彼女が暮らしてきた時間です。その過去を空白にせず、これからの希望も小さく扱わない。「今さら」と結論を出す前に、自分が何を望んでいるのか聞いてみる。美和さんの物語は、そこから続いていきます。






