小さなデザイン事業を営む麻美さんは、20代から仕事を優先してきました。依頼が増える喜びもあり、自分で仕事を続けてきた時間には誇りを持っています。
その一方で、40歳の誕生日を迎えた時、交際経験がないことを、以前より強く意識するようになりました。「仕事は自分で決めてきたのに、恋愛については考えることを避けていた」と振り返ります。
麻美さん・自営業(40歳)

麻美さんにとって、40歳の誕生日はどんな日でしたか?



いつも通り仕事をして、夜に好きなお店のお弁当を買いました。それなりに満足していたんですけど、カレンダーを見たら、翌月も打ち合わせと納期ばかりだったんです。



私は仕事を続けたい。でも、それ以外の予定もほしい。そう思った時に、誰かと付き合ってみたかった気持ちまで、ずっと先延ばしにしてきたことを思い出しました。



恋愛に関心がなかったわけではないのですね。



はい。ただ、仕事が軌道に乗ったら、案件が落ち着いたら、と言っているうちに時間がたちました。仕事には終わりがあっても、次の仕事が来るので、待っているだけでは空かないんですよね。



途中からは、経験がないことを説明するのが嫌で、忙しいことを理由にする面もありました。本当に忙しいので、自分でもその違いを考えずに済んでいました。



経験がないと知られることの、何が不安だったのでしょう。



仕事では、自分の得意なことや実績を説明できます。でも恋愛だと、年齢のわりに何もわからない人だと思われそうで。仕事で会う人の前とは違う自分になるのが怖かったです。



「40歳なら、これくらいは知っているはず」と勝手に想像していました。実際に誰かに言われたわけではありません。相手の期待を、私が先に作っていたんだと思います。



相談するまでには、迷いましたか?



迷いました。仕事なら人に意見を聞くこともあるのに、私生活では、相談すること自体が負けみたいに感じていました。ここまで一人でやってきたのに、と思ってしまって。



でも、仕事だって本当は一人だけではありません。お願いしている方もいますし、わからないことは専門の人に聞きます。私生活だけ、自分一人で答えを出す必要はないのかなと思いました。



初めて話した時は、どんな様子でしたか?



つい、これまで仕事が忙しかった理由を説明し続けていました。経験がないことに、納得してもらえる理由をつけたかったんだと思います。



途中で、「仕事を言い訳にしていた部分もあります」と言いました。でも、その言葉だけだと、頑張ってきた仕事まで嘘になる気がして。好きで選んだことと、怖くて避けたことが、両方あったんだと話してみてわかりました。



過去についての見方にも、変化がありましたか?



仕事をしてきた20代や30代を、恋愛しなかった失敗の期間にしなくてもいいと思えました。楽しかったことも、身についたこともあります。それはそのまま大事にしたいです。



そのうえで、これからは違う時間も持ちたい。過去を否定しないと生活を変えられないわけではないんですよね。全部を取り戻そうと考えると、無理な予定を作りそうだったので。



最初に見直したのは、どんなことでしたか?



仕事の終わりを、自分で決める日を作りました。急ぎでない連絡まで夜に返して、いつでも対応できる状態にしていたので。もちろん納期がある時は調整しますが、毎日そうする必要はありませんでした。



月に二回、夜に仕事を入れない日をカレンダーに書きました。最初は空白にしていると仕事を入れてしまうので、「私用」と書きました。相手がいる予定だけを優先しなくてもいいと思って。



その時間は、何に使ったのでしょうか?



友人と食事をしたり、行きたかった展示を見たりしました。誰かとの出会いがなくても、その時間を取ってよかったと思えました。仕事以外の話をするだけで、自分の一日が広く感じました。



その中で、友人に「誰かと知り合う機会があれば嬉しい」と話しました。仕事の相談以外で、自分の希望を口にするのは照れました。でも言った後、無理に冗談にしなくてよかったと思いました。



実際に、紹介を受ける機会はありましたか?



ありました。最初は友人も含めて食事をしました。私はつい相手の仕事の話を詳しく聞いてしまって、途中で打ち合わせみたいになっていることに気づきました(笑)。



それで、休日に何をしているか聞き直しました。相手は料理が好きで、失敗した話もしてくれました。完璧な人として会わなくてもいいんだなと、その話を聞いて少し気が楽になりました。



ご自身の話もできたのでしょうか。



好きな展示や、最近見た映画の話をしました。仕事の実績を話している時より、言葉がまとまらなかったです。でも、相手が興味を持って聞いてくれたので、きれいに説明しなくてもよかったんですね。



恋愛経験のことは、まだ詳しく話していません。嘘の過去を作るつもりはないですが、最初の食事で全部を説明する必要もないと思っています。どんな人か知りながら、話せることを増やしたいです。



二人で会う約束には、進みましたか?



次に、昼間に展示を見に行く約束をしました。ただ、私の仕事の都合で一度変更をお願いしました。前なら、それで嫌われたかもと考えて、逆に連絡を避けていたかもしれません。



今回は、行きたい気持ちは変わらないことと、別の日程を伝えました。相手も予定を確認してくれました。気持ちを察してもらうより、必要なことを伝える方が、お互い困らないんだと思いました。



仕事と私生活の両方を持つことに、不安はありますか?



あります。新しい関係に時間を使って、仕事がおろそかにならないか心配になることもあります。でも、まだ起きていないことを理由に、全部やめなくてもいいかなと。



私は仕事を辞めたいわけではありません。大事にしていることを話して、それでも一緒に過ごせる方法があるか考えたいです。相手にも大切な生活があるでしょうし。



40歳になってから始めることを、今はどう感じていますか?



緊張しますけど、恥ずかしいだけではなくなりました。知らないことがあるのは事実なので、必要な時は聞くしかないですよね。仕事でも、新しい分野ならそうしてきました。



20代の自分になり直したいわけではありません。今の私として、誰かと話したり、出かけたりしてみたいです。経験の数を増やすことより、その時間を自分がどう感じるかを大事にしたいです。



同じように仕事を優先してきた方へ、伝えたいことは?



これまでの選択を全部間違いにしなくていいと思います。私は仕事に支えられたこともたくさんあります。ただ、今ほしいものが少し変わったなら、予定の使い方を変えてもいいのかなと。



誕生日を締め切りみたいにしない方が、私には合っていました。40歳のうちに何かを達成するより、来月、人と会う時間を一つ作る。そのくらいから続けていきたいです。



麻美さん、ありがとうございました。仕事と同じように、ご自身が選ぶ時間も大切にしてくださいね。
さいごに。
麻美さんの物語は、仕事に打ち込んだ過去を後悔する話ではありません。仕事の充実と、恋愛へのためらいが同時に存在していたことを認め、これからの時間の使い方を考え直す話です。
最初の変化は、交際相手ができることではなく、カレンダーに自分のための予定を書くことでした。空いたら会うのではなく、会いたい人や行きたい場所のために、時間を確保する。その小さな調整を描いています。
人との関係は、仕事の成果のように期限や結果を決められるとは限りません。麻美さんも、紹介された相手との今後はまだわかりません。それでも、自分の希望を伝え、予定を相談できたことには意味がありました。






